2018年11月10日土曜日

ドラえもんと未来からの帰還

Animae Parallelae II
アニマエ・パラッレラエ~並行霊魂  其の

 2016年リオ五輪閉会式・東京五輪告知映像に登場したキャラクターを比較します。





リオ五輪閉会式・東京五輪告知映像



1979


 1985年のアメリカ映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は世界中でたいへん人気があります。私も子供のころにテレビ放映で見て楽しみましたが、あとになって愛着をもって振り返るほどの関心はありませんでした。そこで客観的に見直すために、当時のわが国でよく似た立ち位置にある作品はあっただろうかと考えてみると、ほかにもいろいろ挙げられるかもしれませんが、家庭的雰囲気のなかで世代を超えて愛されている、『ドラえもん』のことがまず思い浮かびました。


 1979年に『ドラえもん』のテレビアニメの放送がはじまりましたが、73年にいちど実現して打ち切りとなった事情があったため、制作スタジオは「アルプスの少女ハイジ」の演出家・高畑勲さんの協力を得て、企画書をつくり原作者の藤本弘さん(藤子・F・不二雄)に見せて説得をしたそうです。時として深刻なテーマを扱いながらも、くりかえし素朴なまんが映画としてのアニメーションに立ち返った監督・高畑勲は、やはり素朴なスタイルの漫画を子供のために描き続けた、藤本弘の代表作の名声確立にも貢献していたわけです。



 それとはまったくちがう方向性で、ロボットアニメの様相を一新させてしまった『機動戦士ガンダム』が翌年までの放送を開始したのも、おなじ79年でした。ちなみに、この年は映画版「銀河鉄道999」や、高畑さんの手をはなれ作画家から演出家となった宮崎駿の映画第一作「カリオストロの城」が上映された、アニメーションの「当たり年」でした。



二つの空想科学譚


 サイエンス・フィクションのジャンルは、あたかも宇宙のさまざまな神秘に対する窓口のように、暗く恐ろしいものをしばしば表現しますが、80年代の文化の明るく朗らかな性質は、このジャンルでも活発で爽快なエンターテイメント作品を数多く登場させました。未来からタイムマシンに乗って主人公を助けに来る、風変わりな老人や、のんきな猫型ロボットの存在によって、卑近な日常がそれと同時に非日常でもある世界。この対比そのものがコミカルな効果を発揮しています。猫型とはいっても耳もなく、雪だるまのような体型で、世話焼きおばさんのようなドラえもん、もう一方では目つきのおかしな、白髪をふりみだした落ち着きのない変人科学者ドクが、作品に明るさを与えています。







 『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のマーティンはのび太とちがって、おっちょこちょいではあるかもしれないが、ロックを演奏してスケボーもやる活発なタイプです。その彼が、のび太のように気弱な性格をした父親の若かりし時代にタイムスリップして、事情がこんがらがったあげく、叱咤激励して勇気をふきこむ役割になる。そうしてみると、両作品の構図はそっくりです。ドラえもんは、のび太くんの孫の孫(やしゃご)が、頼りないひいひいおじいちゃん(高祖父)のせいで傾いた家運を向上させるために、未来から連れてきたのでした。そののび太くんも、長編作品のなかではより感情表現が豊かになり、行動力も見せるようになります(もっとも、そうでなければ物語が展開しないでしょう)。


 『ドラえもん』は連載ものですから、タイムマシンによる物語構造だけでなく、一回ごとに異なる未来の道具が、個別の物語の枠を提供しますから、一回ごとがSF短編だとも言えます(とはいえ、SFというよりもおとき話のように見えることもしばしばですが)。ドラえもんのほうは時にトチ狂うことはあっても、基本的にのんびりした趣のキャラクターであり、連続ものによく合っており、科学者ドクのほうはジェットコースターのようなエンターテイメント映画にお似合いです。どちらの作品もキャラクターがよく立っていて、「ガキ大将」のステレオタイプ(紋切り型)「ビフ」と「ジャイアン」などはそっくりです。ビフは機会さえゆるすなら、あくまでも悪辣な人間であるのに対して、ジャイアンは長編のなかでは仲間の力になり、いいところを見せる。これなどは、現実の多面性をよく表していると見ることもできるでしょう。



日常と冒険


 『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に登場する機械は基本的にはコメディ風の楽しい小道具・大道具ですが、そのうちにはいくつかとても格好よいものがあります。タイムマシンでもある車「デロリアン」は、当時流行していたラジコンのコントローラーで動き回ります。たぶんこの映画にはストレートな物欲、「車を買ってとばしたい!」というような気持ちがこめられているのではないかと思います。実際に主人公は車をほしがっていますが、かれの憧れはトヨタのハイラックスという車でした。そのほかにも、第二部のバーの場面では、任天堂のファミコンソフト「ワイルド・ガンマン」がゲームセンターの筐体として登場します。マーティンがこのゲームを得意だということが、第三部の西部劇篇の伏線になります。このモチーフは「ドラえもん」と共通していて、全体としてはドジなのび太くんの数少ない特技のひとつが、モデルガンの早撃ちで、これが長編のなかで敵とたたかう武器になります。







 『バック・トゥ・ザ・フューチャー』でもうひとつ格好よい道具が、エア・サーフボードで、これは「空を飛びたい」という素朴な気持ちを、やはり当時流行していたスケボーに結びつけたものだと思います。『ドラえもん』の道具はもっと見た目はシンプルですが、ひとつひとつに独創的なアイディアが盛り込まれています。こちらの作品で欠かせない「空を飛ぶ」道具はもちろん、「タケコプター」です。昔ながらのおもちゃ竹とんぼをSF仕立てにした、いかにもまんが的でおおらかな着想です。タイムマシンは時間を旅するための機械ですが、空間を自由に移動することができる「どこでもドア」はいかにも魔法の道具のようで、最もイメージ的に成功したドラえもんの道具の一つでしょう。


 どちらの作品にも、お茶の間のような、街の広場のような、「みんなが集まるところ」という安心感があります。その反面、変化にとぼしい型通りの世界だから平板なのですが、時間旅行の要素が物語に奥行きを与える働きをしています。マーティンは自分が偶然ひきおこしたとはいえ、父親の問題を捨て身の行動で解決し、性格の矯正にさえ成功します。こうして問題を解決して物語が終わるのですが、「ドラえもん」は基本的に終わりのない物語です。対照的に「バック・トゥ・ザ・フューチャー」は行動的な、駆け抜ける動的な物語です。ドクは主人公の年長の友人のような存在です。たとえあまり頼りにならない性格でも、そういう人がいてくれると精神的に助かるということは、人生においてじっさいにあるでしょう。ドラえもんのほうはどうかといえば、やはり「そこにいてくれる」存在です。かわいいのだが、同時にまた世話をしてくれる保護者的な性格で、そう思うと、どこかお地蔵さんのようです。


 

両作品の主人公は小学生と高校生でだいぶ年齢の開きがあり、同じ基準で論じることはできません。しかしどちらも場合も、本質的に英雄的ではなく、ただ常日ごろの問題を解決しようとあがいている日常的な人間であるという点は、重厚な叙事的作品よりもかえっていっそう普遍的なのではないでしょうか。








                             



付録・歴史覚書


1979年は1972年のニクソン訪中にはじまる米国の中国への歩み寄りが結実し、米中国交樹立が成立した年でした。日本は米国の要請により台湾との国交を結んでいたため訪中に衝撃を受け、72年ニクソンのあと田中角栄が訪中し日中共同声明で日中国交正常化を行いました。

しかし同時にこの年には、旧連合国側の社会主義国家である中国とソ連が他国へ侵攻した年でもありました。中国はベトナムに侵攻しましたが、これは中国が支援するカンボジアのポル・ポト政権を侵攻により崩壊させたベトナムに対する「懲罰」が意図されていました。中国軍はこの戦いで大きな被害を受けて年内に撤退しました(中越戦争)。

一方ソ連は、アフガニスタンの社会主義政権を支援するため同国に侵攻しましたが、これに対して米国を中心とする国々が反発し、翌年のモスクワオリンピックをボイコットする事態となりました。この事件をきっかけに70年代の「デタント」(東西陣営間の緊張緩和)はおわり「新冷戦」の時期がはじまり、ソ連は改革と解体による終焉にまで追い詰められていきます。戦争は89年まで10年間続くことになります(アフガン侵攻)。

アフガン侵攻はイスラム勢力に対して親ソ政権を支援するのが目的でしたが、国内革命で親米・脱イスラムの世俗主義的政権が倒されたのが、やはりこの年に起きたイラン革命でした。シーア派のホメイニが初代最高指導者となりました。

同年イランの首都テヘランで学生グループがアメリカ大使館を占拠し外交官らを拘束、444日間にわたり人質にとりました。かれらが開放されたのは1981年、偶々前年に選出されたロナルド・レーガンの就任の当日でした(イランアメリカ大使館人質事件



1985年にはレーガンの二度目の任期がはじまり、またソビエト連邦ではゴルバチョフ書記長が共産党書記長に就任。年末には両者が会談を行いました。日本国内では、ボーイング社による修理ミスがもとで日航機123便が群馬県高天原山に墜落、乗客524人のうち520人が亡くなりました(日本航空123便墜落事故)。また茨城県の筑波研究学園都市(現つくば市)で科学博覧会が開催されました(つくば万博)。




                             
 

参考

http://ghibli.jpn.org/report/doraemon/



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